ブータンとGNHの実際
「架神さんはどんなお仕事をなされているのですか?」
「しゅ、宗教の本を、書いてます……」
「まあ、それは素晴らしいことですわね! 余暇はどのようなことをなされてますか?」
「えっ……、しゅ、宗教書を読んだり……」
「は、はぁ……。あの、休日などはどんなことを……」
「しゅ、宗教のイベントに行ったり……」
「はぁ……」
「……」
↑いまお見合いをしたら、たぶんこんなことになるんだろうなあと、ふと思った架神恭介です。皆さんこんにちは。
それはそれとして、先日の日曜日にはこんなイベントに行ってきました。「“国民総幸福”の社会へ向けて 〜ブータンのGNH哲学を日本にどう活かすか」。GNHとは「国民総幸福量」のことで、ご推察の通りGNP(国民総生産)のもじりですね。GNPは経済的、物質的な豊かさを示す指標ですが、それに対して「国民の精神的な幸せ」を示す指標がGNHであり、この概念を提唱したのがチベット仏教国のブータンなわけです。
ですので、ブータンはこのGNHという概念の下に国家運営をしているわけですが、そう言われると僕たち外部の人間は、「ブータンはGNH100%の桃源郷のようなところなんだろうなあ」などとドリームを見てしまいがちです。しかし、無論、世の中そんな簡単な話ではありません。今回は先日のイベントの中から、「ブータンとGNHの実際」という観点で僕なりにサクッとレポートをまとめてみます。
2005年の段階ではブータンの識字率は発展途上国の中でも下の方です。ただし、近年、急速に改善されつつあります。妊産婦死亡率、乳幼児死亡率も発展途上国の中では中程度ですが、こちらも急速に改善されつつあるようです。ブータンではGNHと人間開発(寿命、教育、経済など)のバランスの取り方が問題とされているようです。
・GNHには危機戦略の面もある
ブータンは中国に隣接しており、拡大政策を採る中国の脅威に晒されています。かといって、同じく隣接するインドに擦り寄っても、今度はインド人が流入してくればそれも脅威となります。そういった板ばさみの中で、小国であるブータンはGNHを提唱することにより、世界に向けて存在をアピールしているという面もあるようです。
・ブータン人の民族衣装は政策によるもの
ブータンに行くとみんな民族衣装を着ているらしいですが、あれは20年ほど前に「ブータン人のアイデンティティ確立のためにみんなで民族衣装を着ようぜ!」という政策があったためで、この政策は国内でも賛否両論のようです。なので、僕たちがブータンに行って、「昔ながらの伝統が息づいているなあ」と思っても、それはごく最近になって復活した「伝統」なのかもしれません。
・文化保護政策
ブータンのGNH政策に「文化保護政策」というものがありますが、人口60万人強のブータンといえど10の民族があり、何を「文化」とするかという問題は簡単ではないようです。
・GNH委員会の存在
ブータンの開発政策のフローには「GNH委員会」なるものが存在します。国会で決定された政策が実施される前に、その政策は一度「GNH委員会」で討議されて、「この政策は国民の幸せに貢献できるか」という点から判断されるそうです。ここでオッケーが出ないと実施できないとのこと。
・GNH政策はミス前提
「GNHを応用した政策」に関して、ブータンはフロントランナーなので手本となるような国がありません。なので、ブータンはミスすることを前提に手探りで政策を行っているようです。
・ブータンのGNHは100%ではない
ブータンは決してGNH100%でみんな幸せな国ではありません。しかし、GNHという概念を国王(トップ)が提唱し、国民も「GNHとかバカバカしいけど、まあ話は聞いてやるか」くらいのリスペクトは持っている、とのことです。この「国民が方向性を共有している」という点が重要なのではないかと、イベントでは言われていました。
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まとめると、「ブータンはGNH100%(みんな幸せ)ではない」「しかし、GNHというビジョンを持って方向性を定め、ミスを前提にしながらも行動に移している」という感じでしょうか。ブータンは100年前まで戦国時代だったらしく、平和的にやっていくためにはGNHという目標を定めて議論の叩き台を作る必要性があったとも言えます。そして、教育により、ともかくも暴力ではなく平和的に話し合える基盤を作っておいて、「GNHを目指して、後はみんなで頑張ろう」という姿勢なわけです。だから、GNHを提唱したからといって、現状ブータンのGNHが100%なわけでもないし、政府が国民に直接幸せを与えられるというわけでもないようです。
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