アフガンで拉致された常岡さんの講演会に行ってきた

 アフガニスタンで拉致されて帰ってきたジャーナリスト、常岡浩介さんの講演会まとめです。筆者がアフガニスタン情勢に詳しくないため、ちゃんとお伝えできるのか不安ですがメモった範囲で書いておきます。(※茶色の文字は筆者によるコメント)

追記:一番下に動画を追加しました! ……というか、動画があるならまとめなくても良かっ(ry<監禁状態の様子>

・アニフガニスタンには学生時代から現地に友達がいる。17年間で五回渡ったが、誘拐されるような危険な目に遭ったのは今回が初めて。それまではあらゆる勢力がお客さんとして扱ってくれていて、アフガニスタンについて日本で聞くような恐ろしいことはどこで起こってるんだろう、と思っていた。
・「(常岡さんが)イスラム教徒だから礼儀正しく扱われたのか」という問いに対しては「はっきり分からない」。自分を拘束していた最初の組織は口ではイスラム的なことを言っていたし、礼拝もちゃんとやっていたが、タリバンや政府軍と戦いながらもアメリカとは戦っておらず、(イスラム的な聖戦というより)単なる土地争いをしていただけとも思われる。次に身柄を渡された組織では司令官がラマダンでも断食しないし、兵士も早朝の礼拝を(起こしてやっても)二度寝するなど不真面目。
・聖戦を始めるイスラム教徒は、普段信仰的に不真面目でも戦争になると真面目に信仰をやる。聖戦になっても不真面目なのは初めて見た。30年も戦争をやっているとその辺りも麻痺してくるのか? 今回、自分を拘束していた人たちは(信仰的に)いい加減なイメージ。
日本大使館は「誘拐組織が何をしたいのか分からない」と困惑していた。組織は脅迫ビデオを英語・ペルシア語・日本語の3バージョン撮影したが、当然、彼らは日本語など分かるはずもない。彼らが「タリバンに捕まったと言え」というので(常岡さんは「タリバンに捕まった」と報道されていたが、実際は「ヒズビ・イスラミ」という武装勢力に捕まっていた、と常岡さんは認識している)、英語、ペルシア語の撮影では「タリバンに捕まった」と言いながらも、日本語の撮影の時は堂々と「タリバンじゃないですよー」と日本語で言ってバレなかった。しかし、大使館側は「まさか誘拐犯たちがそんな頭が悪いはずはない」と考えて、「タリバンじゃないと言ってるが、実は裏の意図があってやはりタリバンなのでは?」「何か想像もつかない意図があるに違いない」「相手の作戦が高度すぎて読み切れないな」とか言ってたらしい。
・後で大使館に事情を説明して、「いや、単に彼らの頭が悪かっただけですよ」と言ったら、職員はすごくゲンナリした顔をしていた。
・脅迫ビデオを撮影するときは常岡さんの横に英語の通訳が付いたのだけど、この通訳がすごくフレンドリーで友達感覚で接してくるので、「脅迫ビデオでこのフレンドリーさはどうなんだろう?」と撮られながら思っていた。
・見張りも最初は24時間体制で二人付いてたのが、見張ってる方も途中でだんだん疲れてきて、一人は昼の間はどっか遊びに行ったりするようになり、最終的には(常岡さんが監禁されてる)民家の住人に「見張っとけ!」といって二人ともどっか行くようになってしまった。
・普通の民家の人はいい人なので(アフガン人は基本的にフレンドリーで、いい人が多いらしい)、時々、こっそりケータイを貸してくれて、それで母親に連絡などできた。
・母親に連絡したことが外務省に伝わって、その内容も(単に常岡さんが母親に「オレ、生きてるよー」と連絡しただけであって)別に脅迫とかじゃないので、外務省は(まさか見張りの兵士がサボってどっか行ってる間にケータイ借りて電話してるなんて思わないから)電話を掛けさせた意図が理解できずに、また困惑した。
・どうして捕まったのかは良く分からない。ヒズビ・イスラミタリバンとは異なる武装勢力、政府に関連する軍閥の通常パトロール中に捕まったのか、タリバンに(常岡さんが)裏切られて捕まったのか(常岡さんはタリバンにはコネを持っていて、「タリバンからの安全」は確保していた)タリバンとヒズビ・イスラミが実は繋がっていたとしても、後で両者は戦闘をしているので、それも良く分からない。ヒズビ・イスラミの一部がタリバンに繋がっていたというのはありえて、どうもヒズビ・イスラミの内部もぐちゃぐちゃらしい。


<解放と犯人>

・常岡さんを世話するのに疲れてきて、食事がパンとお茶だけとか手抜きになってきた。
・場所を移されてからは、食事が豪華になってメロンとかスイカとか出てきた。解放する前に肥やそうという意図かと思った(同じムスリムなので丁重に扱っていたことにしなければならないので)。
・「ラマダーン前に解放する」という話があったのに、なぜか延期になった。後で大統領府の人が「今回、私たちが交渉して解放が実現しました。大変難しいミッションでした。交渉はラマダーン前から始められました」と言ってて、自分に言えた義理じゃないんだけど、「そのせいで解放が長引いたんじゃないか……?」と思った(身代金取れそうにないので解放しようとしてたら、向こうから交渉が来たので引き出せるだけ引き出そうと解放を延期した)
・解放後、アフガニスタン大統領府からは日本政府に対して「タリバンの犯行」とアナウンス。
・大統領府は「犯人はタリバンではないと知りつつ、それを言えない立場」なのでは?
・主犯はあくまでラティー(ヒズビ・イスラミのメンバー。反タリバン。大統領府は事件を後で知って、ラティーフの上司のサバーウーン大臣(この人は人格者で国内ではとても人気があるらしい)のことを慮って「タリバンの犯行」と言ったのでは?
・実際はヒズビ・イスラミの中のラティーフ部隊という特殊な一部の犯行。
・最初はアルカイダと間違えて(常岡さんを)捕まえたのに(なのですぐに解放されそうだったのに)、常岡さんがタリバンと人脈があると知って(ラティーフは反タリバンなので)タリバン感情により問題がこじれた?

補足:アフガニスタンには政府軍と、政府軍の息のかかった軍閥(ヒズビ・イスラミ)と、タリバンセクトがあり、ヒズビ・イスラミのほとんどは反タリバンではないが、ラティーフ派は反タリバンを明確に打ち出している。


<日本とアフガニスタン>

・日本はアフガニスタン和平に関しては、かなりがんばってたし中立的だった。
・9.11以降は流石に小泉政権アメリカに歩調を合わせてしまったけど、それでもタリバン側は「日本は中立でありがたい」(本当は海上給油とかしてるのに)とかなり好意的に評価してくれている。
・鳩山政権は海上給油もやめたので、完全に中立。
民主党にはアフガニスタン和平案があり、タリバンにも人脈作りをしていたが、鳩山失脚で空中分解し、元は非武装地帯を作るための50億ドルが(非武装地帯の構想はなくなったのに)それだけ生きてて、カルザイ大統領へそっくりプレゼントすることになってしまった。部下の部下が(常岡さんを)誘拐するような無能な大統領にプレゼント!?と思ってズコーっとなった。
アフガニスタンで仲介ができるのは、当事者でなく利害関係がない日本だけ。(アフガニスタンに関してはいろんな国がアフガニスタン内の各セクトを支援して当事者になってしまっている)

※上記は、「タリバンは一般に思われてるような『悪の権化』といったものではない」という考え(というか知識?)が前提にある。知識不足により筆者には判断不可能。


<質疑応答>(終了後に筆者が個人的に聞いた内容も含む)

Q:そもそも今回はタリバンに何を取材しに行ったの?
A:一つには「和平交渉はありうるのか?」。以前はアメリカとの和平を考えていたが、アメリカ側は本気ではなく油断させるための策略だったと現在では捉えているらしく、「戦い抜いてアメリカを追い出すしかない」と今は考えている。もう一つは「イスラム同士でなぜ戦うのか?」タリバンアメリカとだけ戦っているわけではなく、国内の他セクトとも戦っている。これに対する回答は良く分からなかった)

Q:どういった意図で取材に行ったのか? 好奇心的なものなのか、長期的な政治的展望があってのことなのか、それともジャーナリスト魂なのか。
A:感情的には「アフガニスタンに平和になって欲しい」というのがある。アフガン人はいい人たちで、なんとかしてあげなきゃ、と思ってる。そのために何で貢献できるかと言えば自分には取材しかない。それで取材をしているわけだが、自分の活動がアフガニスタンの平和に繋がっているかは分からないので、その意味ではジャーナリストというのは結果がパッと分からない、やりがいのない仕事と言える。

Q:安全性に関してはタリバン絡みの安全性だけ確保しておけば大丈夫という認識だった?
A:その通り。まさかタリバンとコネを作っておいたら、今度は反タリバンの方が危険になるとは思わなかった。

Q:身代金が取れなかったから、諦めて人質をおうちに帰すというメンタリティが良く分からないのだけど……。
A:アフガン人は(基本的には)外国人を客人としてもてなす傾向がある(アメリカ軍が来る以前はそうだった)。そういったのもあって最初から「殺しはしない」と決めた上で、粘れるところまで粘って身代金を取ろうとしたのでは? 最初から「殺さない」つもりなら身代金を払っても払わなくても関係ないし、また、身代金を払っても最初から「殺す」つもりなら結局殺されるだろうから、「払わないように」言った。彼らは自分たちをタリバンだと思わせたいから、最初から殺す気なら(身代金を払っても)口封じのため殺すと思っていた。


 ***

 個人的には、「常岡さんはなぜ危険を冒してまでアフガニスタンに取材に行ったのだろう」という疑問がありました。常岡さんが解放されたニュースを聞いた時、筆者は実家にいたのですが、「あ、常岡さんが解放された。この人、知り合いの知り合いなんだ」と言ったら、うちの父親が「お前の友達の友達は非常識な人なんだな」と言うので、「ジャーナリストが仕事で行ってるのに非常識もなんもないだろう」と思いながらも、「でも、ジャーナリストだからって、なんでアフガニスタンまで取材に行ったのだろう??」とも思っていたわけです。その辺りの感覚は質疑応答で聞けたので個人的には納得できましたが、なんと言いますか、ジャーナリストというのは大変な商売だなあ……と。「そこに情報があり」「自分なら取材ができ」るならそこに行ってしまう。それが「何かポジティブな結果に繋がる可能性」はあるけれど、決して確実なリターンがあるわけではない(アフガニスタンの平和に確実に繋がるわけではない)。でも、自分には出来るから行ってしまう。傍から見ればリスク&リターンが釣り合っていないわけで、非常識と言われても仕方ない面もあるような気もする。ジャーナリスト魂と呼べばカッコイイ気もする。とにかく大変な商売だなあと思いました。

関連:「常岡浩介、カルザイ政権の闇と拘束の真相を語る」

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